てんこおん の にっき

ボカロ解釈マン

『ロストワンの号哭』の歌詞解釈


はじめまして。てんこおんと申します。
今回は『ロストワンの号哭』の歌詞解釈をします。


原曲はこちら。何度聴いても素敵な曲です。

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目次
タイトルの意味
間奏について(余談)
歌詞解釈
おわりに

 


 

タイトルの意味


解釈の前に、タイトルの「ロストワン」「号哭」の意味について書いておきます。

ロストワンは「アダルトチルドレン」の分類の一種です。ですから、ロストワンについて説明する前にアダルトチルドレンの意味から書きます。今回はウィキペディアで調べました。
ウィキペディアの引用は邪道?しらん。

 

アダルトチルドレンとは、
①親がアルコール依存症の家庭で育って成人した人
②親による虐待や家族の不仲、感情抑圧などの見られる機能不全家族で育ち、生きづらさを抱えた人。「機能不全家庭で育ったことにより、成人してもなおトラウマ(外傷体験)を持つ」という考え方、現象、または人のこと。

(最終閲覧日は2018/11/10。見やすいように文章を省略・番号を付加・強調しています)

 

ここには「成人してもなおトラウマを持つ」と書いてありますが、個人的には、アダルトチルドレンを自覚している子どもは、大人になってもアダルトチルドレンのままであるケースがあると思います。


次に「ロストワン」の説明です。

 

ロスト・ワン(lost one / いない子)
けっして目立たないことによって、存在し続ける子です。「壁のシミ」のような存在です。

とにかく静かで、ふだんはほとんど忘れ去られています。家族がいっしょに何かやろうというときにいないのですが、いなくなったことにも気づかれないような子です。
本人はこうした形で家族内の人間関係を離れ、自分の心が傷つくことを免れようとしています。

https://www.just.or.jp/?terminology=000877   最終閲覧日は2018/11/10)

  

それから「号哭」です。これは「号泣」と言い換えられます。

 
いないものとされている子の号泣」と言い換えてみましょうか。さて、いない子の泣き声は、誰かに届くのでしょうか。

 


間奏について(余談)

本題の前に余談。間奏部分にあるドラムのキャッチーな「だんだん だかだか だんだん だかだか だんだん だかだか だん(だん)(文字にするとダサい)。これは怒りを表現しているように見えます。というのも、「だんだん」にはドラムで足を使って出す音が含まれています。それが2回。両足で地団駄を踏んでいるような様子でしょうか。そして「だかだか」で両手を使ってドラムを叩きます。両手で、なかばヒステリックに周りのものを壊したり、あるいはやりきれない思いで握りこぶしを作ったりする。そんなイメージがわきました。


このへんの部分のドラム音、どこかで似たようなのを聞いたことがあると思ったら『夏祭り』でした。きーみーがーいたなーつーは。あのドラムは花火の激しい音を表現したものです。『ロストワンの号哭』のメロディーも、怒りとともに激しさがあります。

それから、「だんだん だかだか〜」の前後に流れているギターの音(通称「ピーマン食べたい」の音)。この音が泣いているようにきこえます。

前奏からもう素敵。間奏部分もまさに『ロストワンの号哭』です。


歌詞解釈


さて本題の歌詞解釈です。そうとう長いです。
歌詞の全文はこちらからどうぞ(新しいウインドウで開きます)。

刃渡り数センチの不信感が 挙げ句の果て静脈を刺しちゃって 
病弱な愛が飛び出すもんで レスポールさえも凶器に変えてしまいました

ノーフィクション

 
刃渡り数センチの不信感→「刃渡り数センチ」って、普通はナイフに使う言葉です。私たちが料理に使うときの包丁の刃渡りは20センチくらいなので、「刃渡り数センチ」だとかなり短い部類です。でも刃渡り数センチでもナイフは鋭くて危険。ここから、この歌詞の出だしの「不信感」とは、「程度にしてみればほんの少しだけれど、とても鋭くて危険な不信感」といえます。そんな不信感がきっかけで、自分のものなのか相手のものなのかはわかりませんが、とにかく傷をつけてしまった。しかも静脈なので、はたからみれば小さな傷に見えるかもしれません(静脈と動脈なら、動脈のほうが血がよく出ます)。

病弱な愛とはそのまま、病的で、か弱い愛情のことか、血のことでしょう。愛には赤色のイメージがあります。
「ちょっとした不信感がきっかけで傷をつけてしまった(つけられてしまった)ら、案外大きくて血が飛び出してきた。」
DVや虐待の加害者にありがちな、「自分がした行為は愛情だと思っていた」を彷彿とさせます。
それから「刃物」「静脈」で、リストカットを想像しました。

 

レスポールさえも凶器に変えてしまいました
レスポールはギターのことです。ここは2通りの解釈ができます。
1つめはレスポールを凶器にして物理的に相手を殴るさま。些細な不信感がきっかけでレスポールで相手を殴ってしまったら、血が出た(本人は愛情のつもりだった)。
2つめは、レスポールを使い、まるで凶器のような音楽を作ってしまったということ。後者、音楽のほうはまさに今歌っていますので、ノーフィクションです。

ちょっと憶測で語ります。私は洋楽に疎いので詳しくはわかりかねますが、AC/DCというバンドが”If You Want Blood (You've Got It)”(タイトル訳:ギター殺人事件)を作曲しています。タイトルが「レスポールさえも凶器に変えてしまいました」と似ています。もしかしたらこの曲が『ロストワンの号哭』と関係があるかもしれません。というのも、歌詞の雰囲気が近いです。『ギター殺人事件』の歌詞に、” Tell me who can you trust ”(あなたは誰なら信じられるのか、私に教えて)、“Locked in a cage ”(かごのなかに閉じ込められて)とあります。

あとレスポールってことはギタリストのレス・ポールとも関係する?ここはだれか教えてください。

 

話は戻って、歌詞解釈の次に行きます。

 

数学と理科は好きですが 国語がどうもダメで嫌いでした 
正しいのがどれか悩んでいりゃ どれも不正解というオチでした

 

数学と理科は、数字が多く、また客観的にものごとを把握しようとする学問です。なのでこの2科目は、見ようによっては「感情のない」学問です。いっぽう国語(ここでは物語文のことでしょう)は、登場人物の感情を理解しながら読む必要があります。

つまり、感情をいれないで解く数学や理科は好きなのに、感情を理解しないといけない国語ができないことを指します。「自分は感情がわからない」というのをこう表現しています。自分で自分の感情がわからない、あるいは自分は相手の感情がわからない、という意味かなと。

正しいのがどれか悩んでいりゃ どれも不正解というオチでした」といっています。答えを絞り込む時点ですでに外れている=感情がまったくわからない。


この歌詞の主人公が、感情をまるでテストのように、正解、不正解があると思ってしまっているというのが泣けます。感情がことば(声)や行動になったときには、やってはいけないことがあるのですが、心のなかで思ってしまうものに関しては正解不正解なんてものはありません。相手が本当は心のなかでどう思っているかなんて誰にもわかりません。

ちなみにここは、よく聴くとリンちゃんが「国語がどうもダメで嫌いでした 」と歌っています。

 

本日の 宿題は 無個性な 僕のこと 
過不足無い 不自由無い 最近に 生きていて 
でもどうして 僕達は 時々に いや毎日 
悲しいって言うんだ 淋しいって言うんだ

 

作文や、美術の授業で「自分について書きなさい」と言われたのでしょう。でも無個性な自分は、何も書けない。現状には満足しているはずなのに、自分のことはわからない。
ここ、直前で「自分は感情がわからない(国語がダメ)」と言っているのに「悲しい」「淋しい」って歌っているんですよね。実は感情らしきものがあるのに、自己否定を繰り返して自分には感情がないと信じ込んでいる。

 

黒板のこの漢字が読めますか あの子の心象は読めますか 
その心を黒く染めたのは おい誰なんだよ おい誰なんだよ 
そろばんでこの式が解けますか あの子の首の輪も解けますか 
僕達このまんまでいいんですか おいどうすんだよ もうどうだっていいや

 

対比です。
学校で習った事実(黒板の漢字や計算式)は分かりますか。(わかる)
一方、あの子の心象(考えていること)は分かりますか。あるいは、あの子が抱えているものから解放できますか。(わからない・できない)

勉強はできるのに、「あの子」のことはわからない。

あの子が誰なのかは最後で判明します。

ほんとうに「もうどうだっていい」のかはわかりません。ほんとうに諦めたのか、それとも心のどこかで現状を変えたいと思いながらも「どうだっていいや」と言っているのか。

 あ、ここも「おい誰なんだよ」というよりかは「うぉい(い)誰なんだよ」と歌わせています。あと「くびのわも」と聴こえます。
この曲、調声がとても上手です。さも人間が歌っているように歌わせています。作曲者のNeruさんや友達募集Pさんを尊敬すると同時に、ボカロがさまざまな音を発声できるよう進化していることもわかります。

 

いつまで経ったって僕達は ぞんざいな催眠に酔っていて 
どうしようもない位の驕傲をずっと 匿っていたんだ

 

ここの解釈は一番難しいです。「ぞんざいな(いいかげんな、テキトーな)催眠」とは何か。「驕傲(プライドの高いこと)」とは具体的になんなのか。
「どうしようもない」は、「自分では対処しきれない」という意味にもとれますし、途中で切って「しょうもない(くだらない)」ともとれました。
おそらく、「僕達は、表面ではいいかげんに生きているくせに、裏ではとてもプライドが高い」ということまでは言えそうです。


主観を含みながら考察します。これは上の「もうどうだっていいや」に関係するかもしれません。表では「どうだっていい」と言っておきながら(いいかげんに生きていながら)、実はどうでもよくない(プライドがある)。
でもこの主人公は、「実はどうでもよくない」の本音の部分を、自分自身で「こう思うのはよくないこと(驕傲はあまり良い意味では使われない)」と否定しています。

 

昨日の 宿題は 相変わらず 解けないや 
過不足無い 不自由無い 最近に 生きていて 
でもどうして 僕達の 胸元の 塊は 
消えたいって言うんだ 死にたいって言うんだ

 

この宿題(僕について)に提出の締め切りはあるのでしょうか。解かなければいけないものなのでしょうか。


胸元の塊=こころのこと。この主人公、ものごとをどこか遠回しに、客観的に見ています。自分をどこか遠くから見ている感覚が、ロストワンやアダルトチルドレンにはあると思います。

 
(サビは同じなので省略)
ここから、自問自答の凄まじいラッシュが始まります。

 

面積比の公式言えますか 子供の時の夢は言えますか 
その夢すら溝(どぶ)に捨てたのは おい誰なんだよ もう知ってんだろ 

 

1番の歌詞で主人公が「数学と理科が好き」と言っていたのもあり、「面積比の公式」が出てくるのでしょう。ここもサビの「黒板のこの漢字が読めますか あの子の心象は読めますか」に近いものがあります。授業で当てられたら言えるけれど、自分の感じたことは言えない。

誰=自分のことと解釈するのがベターだと思います。同時に、サビに出てきた「あの子」も、おそらく自分のことでしょう。自分とは、主観的な自分のほかに、「過去の自分(夢をもっていた自分)」かもしれないし、「いまここにいる、もうひとりの自分(自分を客観視している自分)」かもしれません。歌詞のところどころに出てくる「僕達」は、この2人の自分(過去と今の自分、主観的と客観的な自分)を指してもいます。

曲の最初に「僕は教科書や宿題よりもっと大事なものを 教室に忘れてきたのかもしれない。」と表示されます。それは「自分自身のこと」でしょうか。


いつになりゃ大人になれますか そもそも大人とは一体全体何ですか 

 ここは深い考察はしません。できません。この歌詞のとおり、何を基準として「大人」というのでしょうか。

昔、どこかの大学入試の過去問で「さまざまな国で、大人になる基準は異なっている。ドイツは18歳からお酒が飲める。」といったような文章を読んだことがあります。お酒が飲めたら大人なんですかねえ。


どなたに伺えばいいんですか おいどうすんだよ もうどうだっていいや

もうどうだっていいや」について。この部分については、上で「ほんとうに諦めたのか、それとも心のどこかで現状を変えたいと思いながらも『どうだっていいや』と言っているのか」と書きました。
わたしは最後の「もうどうだっていいや」が、ほかに比べて力強いものに感じました。曲の終わりなので、「最後の叫び」でもあるような気がします。


おわりに


さて、いかがでしたか。『ロストワンの号哭』は全体的に怒りと諦めと嘆きに満ちた曲という印象を受けました。

ぜひみなさんの意見も聞きたいです。

 

JubyPhonicさんという方がこの曲を英語で歌っています。そちらもオススメなので是非。日本語訳の字幕がついているのでわかりやすいです。

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では。

歌詞を解釈してほしいボカロ曲、あるいは英語を日本語訳してほしいボカロ曲があればコメントでご記入ください。多忙なのでご希望に答えられるかは分かりませんが、参考にさせていただきます。